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Chad

UNDP駐日代表、近藤哲生さんにインタビューにご協力いただきました。近藤さんは2010年から2013年末までUNDPチャド事務所長を務め、国連平和維持ミッション(MINURCAT)の撤退後の治安維持、文民保護や人道支援調整等の引継ぎ、サヘル地域における復興減災能力(レジリエンス)強化、人間の安全保障などのプログラムを指揮しました。(UNDP駐日事務所HPより)今回は、近藤さんのチャドでの業務について、そしてチャドという国についてお話をお伺いしました。

 

近藤さんのチャドでのお仕事

 

UNDPチャド事務所長として働いていました。UNDPの開発途上国での仕事というのは、その国の開発を手伝うということです。開発を手伝うといっても色々な方法があります。例えばキャパシティー・ディベロップメント。その国の政府や市民に開発のための能力を身に着けてもらうということです。

 

もう一つは、計画を立てること。計画を立てるためにはその国の現状をしっかり認識しないといけません。現状を認識したうえで国民の幅広い合意を得てこれから5年後、10年後、50年後その国をどのようにしていこうかということを話し合います。また、2000年から2015年までの国際的な開発目標MDGsや2016年から始動したSDGsの達成のために具体的にどのようなことをしていけばよいのかということを決めます。これら二つ、キャパシティー・ディベロップメントとプランニングが、私がチャドで行っていた仕事です。

 
現地の人が納得できるようなプランニングをするために必要なこととは?

 

計画を立てるためには、現状に対する正しい認識が必要です。まずは、今ある現状をそのままに正しく認識してもらうことから始めます。ただ、チャドの人々にとってはその現実を受け入れるということもなかなか難しいことなのです。過去に戦争や民族対立を乗り越えてきた国なので、そこにはやはり認めたい事実と認めたくない事実があります。

 

国連の仕事はその国に住んでいる人たちの物質的、社会的な幸福度を上げることですので、まずはその国のリーダーたちに国民の幸福度を上げるためにすべきことを相談し、理解してもらうことが必要です。民主的選挙によって国民に選ばれたリーダーたちと開発に対する認識を共有することが重要なのです。

 

チャドでの仕事の中で最も印象に残っている仕事は?

 

UNDPやほかの国連機関が世界中どこに行っても最初にチェックすべきことは、女性の人権が保障されているかということです。女性が社会で活躍するチャンスが不当に奪われていることは国際的に大きな問題となっています。チャドでは、妊産婦の死亡率が非常に高く、日本の妊産婦の死亡率が4/10万人なのに対して、チャドでは700/10万人です。この原因は、医療機関の不足、医師や助産師の不足、国家に妊娠・出産・子育てを支援する能力が欠けていることにあります。

 

この問題を解決するためにどのようなことをしたのかというと、まずは大統領やリーダーたちにこの問題を知ってもらうことから始めました。一旦撲滅したポリオが復活してしまったこと、マラリアで亡くなる乳幼児やHIV/AIDSで苦しんでいる国民がたくさんいることなど、全国から集めた国民の健康に関する医療データを大統領に提示しました。そのうえで国民全体の健康状態を改善するためには、家族の健康状態に非常に敏感であり、妊娠・出産を経験する女性の人権保障が非常に大切であるということを訴えかけました。大統領はこれに対して理解を示してくださり、国民の健康や女性の権利について話し合うための会合を毎月開いてもらえることになりました。毎月の会合のための準備は非常に大変なものでしたが、大統領が私たちの提案に理解を示してくださったことで仕事が非常にやりやすくなりました。この毎月の会合の成果もあって、チャドでは2015年に18歳以下の少女の結婚を禁止する法律が制定されました。

 
チャドという国の魅力とは?

 

チャドは、アフリカの中央部にある内陸国なので、外部からものを運んでくるにはコストも時間もかかって大変です。そういう意味では、生活が不便な部分もあるのですが、逆に言うと外界からの侵入者をチェックできるので周囲からの悪い影響を受けにくい環境でもあります。チャドには古代トゥーマイ王国という王国があり、そこで昔は文化が栄えていました。もともとはアフリカの中でも、古代からの文化が存在していた地域と言われています。そのためなのか、チャドの人たちは自分たちに対するプライドが非常に高いのです。しかし、それは排外主義的、国粋主義的なプライドではなくて、自分たちは人間としての尊厳を持っていてそれは尊重されるべきだというようなプライドの高さですね。チャドに実際に行っていてそれを感じました。

 

チャドの人々の生活をよりよくするための開発

 

チャドでは人材の不足が問題となっています。内戦や近隣諸国との戦争の間教育が止まっていたせいで、長年、人材育成の蓄積ができませんでした。また、チャドの平均寿命は50歳に満たず、非常に短いです。国民の半数以上が25歳以下で亡くなってしまいます。また、チャドは石油が少しとれますし、綿花やサトウキビ、シアバターの原料の栽培も行われていますが大々的な産業はありません。

 

これらのことがチャドの発展を妨げています。新たな技術を紹介し、使ってもらうことが一つの解決策になるかもしれません。携帯電話やスマホを使って農産物を効率よく販売するということは実際に現地で行われていますし、自分たちが持っている技術をアフリカの開発に役立てたいという日本企業も増えてきています。開発(De-velop-ment)とは、人々の心の中にある包み (envelope) を取り除くことです。チャドの人々の生活をより良くするために、チャド人々の心の中にある希望を実現することを応援することが開発なのです。

UNDP駐日代表 近藤哲生さん

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